大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(行ケ)154号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 本件考案の目的、構成及び効果

1 成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によると、本件考案は、対向する一対の側壁の上端間に上梁部を有し溝底が開放されてなる側溝ブロツクの改良に係る考案であるが、その改良の目的とするところは、側壁の下端面(幅)(第1図のb)が下打ちコンクリートと衝接し、かつ側壁の下部側面が溝底コンクリートと重量方向の隣接面(第1図の8)のもつような従来の側溝ブロツク(第1図参照)について、主として<1>重量方向の荷重(第1図のW)による側溝ブロツクの側面と溝底コンクリートとの分離に伴う側壁下端面への荷重の集中化による下打ちコンクリートの上下方向の剪断破壊を防止するとともに、<2>右の下打ちコンクリートの上下方向の剪断破壊により、側壁と溝底コンクリートとの相対位置及び相対角度が変化し、これに伴い側壁の側面に水平方向に加わる土圧(第1図のF)により側壁が損壊することをも防止しようとすることにあることが認められる。すなわち、従来の側溝ブロツクの欠点に関して、本件考案の詳細な説明欄には、「重力方向の荷重Wに対し、ブロツクの側壁6と溝底たるコンクリート7とはその隣接面8において、上下方向に分離し易い。そのため、荷重Wはブロツク1の側壁下端面9にすべて加わる。そして、該荷重Wが側壁下端9と衝接する下打ちコンクリート5に側壁幅b(Bとあるのは誤記と認める。)で集中して加わる。そして、該側壁幅部分の面圧が大となつて、下打ちコンクリート5が上下方向に剪断破壊する。すると、一定高さに水平に配設されたブロツクは前後左右に傾斜すると共に、該傾斜に伴い溝底たるコンクリート7と側壁6との相対位置及び相対角度が変化する。そのため、土圧により側壁6が損壊されることがしばしばあつた。」(本件公報二欄五行ないし一八行)との記載があり、本件考案は、かような従来の側壁ブロツクの有する欠点の改良を目的とするものである。

被告は、本件考案の詳細な説明欄に記載された従来の側溝ブロツクの前記のような欠点に関して、下打ちコンクリートは、地盤に応じてその厚さを変えて打設され、地盤が軟弱な場合には鉄筋を入れて補強するから、下打ちコンクリートに亀裂が入つて破損することはないし、下打ちコンクリートが破損しない以上両側壁の底面開放部に打設される溝底コンクリートが分離することは考えられない旨主張するが、前掲甲第二号証によれば、本件考案は、下打ちコンクリート及び溝底コンクリートによつて勾配自由な側溝を形成するものであるが、かような本件考案に係る側溝ブロツクを据え付けるに当たつて、下打ちコンクリートを十分に強固なものとすることは望ましいことであり、地盤が軟弱な場合には鉄筋を入れて補強することが行われるとしても、地盤状態が多様にわたるうえに、特に勾配を形成する場合などにおいては、コンクリートの打設が不均一になる虞れもあつて、種々の地盤状態に応じて常に万全の下打ち基礎が作られ、それによつて重量方向の荷重に対する懸念が全く解消されるものとは考えられないし、また、後から流し込んだコンクリートと予め製造された側溝ブロツクの側面との境界面の結合力が弱く分離し易いものであるとの技術常識に照らし(この技術常識は当事者間に争いがない。)、この種側溝ブロツクの考案に当たつては、重力方向の荷重Wによる下打ちコンクリートの局部的な剪断破壊の問題を解決することは十分意義のあることといわざるを得ない。また、被告は、本件考案に係る側溝ブロツクを据え付けるに当たつては、溝底側端嵌入凹部12を常に十分越える高さまで溝底コンクリートを打設する必要があり、この溝底に打設されたコンクリートのうちの凹部を越える部分が水平方向からの土圧に対する支持力をもつから、側壁下端に工夫を凝らす意義はない旨主張するが、前掲甲第二号証(本件公報)によつて本件考案の詳細な説明及び第4図を検討してみても、本件考案の側溝ブロツクを据え付けるに当たつて、少なくとも凹部を埋める程度の厚さに溝底コンクリートを打設する必要があるものの、これを常に十分越える高さまで溝底コンクリートを打設する必要があるものとは認められないし、一般的にも使用する生コンクリートの量は、経済上の観点からの制約もあるのであるから、この種側溝ブロツクにおいては、重力方向の荷重による側壁下端の側面と溝底コンクリートとの分離に伴う下打ちコンクリートの破壊の問題と共に、水平方向の土圧の解決も求められるものと認められる。

したがつて、前記認定のような本件考案の詳細な説明欄に記載された従来の側溝ブロツクの欠点に関する認識に不合理な点があるものとは認められない。

2 そして、前記争いのない本件考案の要旨に前掲甲第二号証を総合すると、本件考案は、右のような従来の側溝ブロツクの欠点を改良する目的をもつて、<1>「少なくとも側壁6の内外面の中間部以下を突出段部のない平面で形成する」構成と<2>「側壁6内面の下端にはその長手方向に沿う一部のみに溝底側端嵌入凹部12を形成する」構成を採用したことに構成上の特徴があること、それによつて、本件考案に係る側溝ブロツクが次のような作用効果をもつものであることが認められる。

(a)溝底側端嵌入凹部が存在することによつて重力方向の荷重Wをコンクリート底板(第4図参照)13の全面に均一に分布させることができる(本件公報三欄一五行ないし一七行)

(b)溝底側端嵌入凹部12の部分は薄肉になるものの、その薄肉部は側壁の長手方向の一部のみであるから、水平方向からの土圧Fに対しても全体として十分に耐え得る溝底が形成できる。すなわち、凹部に対して相対的に突出した凸部14(第3図参照)が存在するので、土圧Fに側壁下端の薄肉部が剪断破壊される虞れがない(同三欄八行ないし一四行)。

(c)ブロツク製造の際の型抜きが容易であると共に、型抜き時におけるブロツク下端部の破損の虞れがない(同三欄二三行ないし四欄一行)。

(d)輸送及び取付けの際においても凹部12に基づく薄肉部分は少ないのでその部分の破損の虞れも比較的少なくなる(同四欄八行ないし一〇行)。

右の作用効果のうち、(c)の事柄は、前記<1>の構成によるものであるが、他はいずれも<2>の構成によつて奏される作用効果といえる。

なお、原告は、本件考案が前記<2>の構成を採用したことの効果の一つとして、側壁下端の長手方向の全部に凹部を設けたものに比べてコンクリートの老化に伴う側溝ブロツクの寿命と信頼性の点で優れていることを主張するところ、コンクリートの腐食老化が排水等との接触によつてより早まることや凹部の奥まで老化が進むのにそれだけ時間がかかるものであることは原告主張のとおりであるとしても、長手方向の全体に凹部を設けたものにあつても溝底コンクリートと結合が確実であれば間隙への排水等の浸入が避けられるし、また、多様な条件の下にあつて深い凹部を一部に設けた構成のものが、浅い凹部を全体に設けたものに比べて時間の経過に伴う老化の程度がどのように相違することになるかは明確に推認することは困難であり、かつ、前掲甲第二号証(本件公報)をみても、コンクリートの老化を遅らせ得るとの点は本件考案の作用効果として記載されていない。したがつて、原告の主張する右の事項は本件考案の作用効果として認めることはできない。

また、前記認定に係る<2>の構成による効果に関して、被告は、側溝ブロツクを据え付ける際に打設する生コンクリートが凹部の隅部にいきわたらず、この部分に空気が溜まり易いので、この隅部に完全にコンクリートを充填することが困難であるとして、本件考案において凹部を設けた意義は達成されない旨主張する。

確かに、生コンクリートの打設に当たつて、隅部の形状が複雑になればなるほど、隅部にいきわたりにくくなり、空気層が形成され易くなる傾向のあることは自明のことであるが、これを避けるために、一般的には、打設するコンクリートに振動を与えたり、コンクリートの粘度を調整して緩くしたりする方法が考えられるところである。したがつて、この種側溝ブロツクの据え付けに当たつてなされるコンクリートの打設において、嵌入凹部が存在するからといつて、その凹部へのコンクリートの打設が技術的に困難であるとは認められない。特に、本件考案の嵌入凹部は前記認定の作用効果の観点からみても側壁の厚さ方向にほぼ直角に窪んだ単純な形状のものであり、かつ打設する溝底コンクリートの高さも凹部と同じか、幾分高い程度で良いものと解されるから、コンクリートの粘度を考慮することにより、側壁下端の嵌入凹部にコンクリートをいきわたらせることができるものと認められる。たとい、側壁下端の凹部の隅部に空気層が形成されたとしても、本件考案の嵌入凹部の形状が複雑なものではないので、空気層はきわめて小さいものと推認でき、嵌入凹部に対して溝底コンクリートの凸部がもつことの期待されている本来の機能を損なう程のものではないと認めるのは相当である。このことは、成立に争いのない甲第五号証のコンクリート嵌入実験の結果からも認められるところである。したがつて、この点の被告の主張は首肯できず、また、前記<2>の構成及びその構成による前記(a)(b)及び(d)の効果についてこれらの点に本件考案の特徴があるとはいえないとする被告の主張は採用できない。

三 取消事由についての判断

原告は、取消事由として審決の相違点<2>についての判断の誤りを主張し、審決がその判断の前提とした事項及び作用効果についての認定判断の誤りを主張する。

1 第一引用例に審決認定のとおり「側板1、1の内面下端の長手方向に沿う全部に段部3を形成したコンクリート組立水路」が記載されていること、これが本件考案に係る側溝ブロツクと共に水路という点で技術分野を等しくするものであること及び第一引用例の段部3も本件考案の溝底側端嵌入凹部もともにコンクリート側壁と溝底が上下に分離することを防止する機能を有することは当事者間に争いがない。

2 しかしながら、本件考案の溝底側端嵌入凹部と第一引用例の段部との間には、審決認定の相違点<2>の差異があり、前記認定説示のとおり本件考案は、「側壁6内面の下端にはその長手方向に挿通して一部のみに溝底側端嵌入凹部12を形成する」構成を採用することによつて、重力方向の荷重を底板に均一に支持させてこれに対応させる(aの効果)と共に、前記(b)の効果、すなわち、溝底側端嵌入凹部12の部分は薄肉になるものの、その薄肉部は側壁の長手方向の一部のみであるから、水平方向からの土圧Fに対しても全体として十分に耐え得る溝底が形成できる。すなわち、凹部に対して相対的に突出した凸部14(第3図参照)が存在するので、土圧Fに側壁下端の薄肉部が剪断破壊される虞れがない、という効果をも達成させたものであるのに対し、第一引用例における段部は、側壁下端の全部にわたつて形成されているものであつて、本件考案のように水平方向の土圧に対処し得る肉厚部分、すなわち凹部に対して相対的に突出した凸部14(第3図参照)が存在しないのであるから、(a)の効果は認められるが、水平方向の土圧に対する右の(b)と同等の効果は第一引用例の段部からは期待できない。そのようにみてくると、第一引用例の段部3について、「その機能からみて本件考案の溝底側端嵌入凹部12に相当する」としたうえで、第一引用例に、本件考案の前記<2>の構成と「軌を一にする技術内容が示されている。」とした審決の認定判断は(b)の効果に関する限り誤りといわざるを得ない。

3 審決は、「側壁6内面の下端にはその長手方向に沿う一部のみに溝底側端嵌入凹部12を形成する」構成を採用すること(相違点<2>)について、格別の工夫を要することではないと認定判断した根拠として「ブレキヤストコンクリートと現場打ちコンクリートとを一体化する際に、ブレキヤストコンクリートの現場打ちコンクリートとの打ち継ぎ部の一部のみに凹部を形成することは、従来周知のことである」を挙げるが、その周知とした具体的技術内容は必ずしも明らかではなく、裏付けとなる資料の引用もない。被告は、現場打ちコンクリートによつて埋入する側壁下端部の一部に凹部を形成することが従来周知のことであるとして乙第二号証ないし第五号証を援用する。しかしながら、右乙号各証には、本件考案のように「側壁6内面の下端にはその長手方向に沿う一部のみに溝底側端嵌入凹部12を形成する」構成を示唆するものを見い出すことはできない。

以上述べたところによれば、(b)の効果、ひいては(a)及び(b)の効果の調和的達成ということは、第一引用例にはみられないものであり、この効果は本件考案が相違点<2>の構成を採択したことにより奏されたものであるから、相違点<2>の構成を格別の工夫を要しないことと認めることはできない。

4 本件考案が前記<2>の構成を採用したことによつて、前記(a)(b)及び(d)の効果を奏するものであることは前記認定説示のとおりである。審決は、右の<2>の構成に基づく作用効果について、「コンクリートを打設した後には側壁6と溝底たるコンクリート7とが密接に結合して最終的に一体となるから、凹部12を側壁6下端の内側の長手方向に全部設けるか一部に設けるかによつて側溝ブロツク埋設後の土圧Fに対する剪断抵抗力に顕著な差異が生ずるものとは認められない」と判断しているが、一般にコンクリートの結合において、時を異にして成形された部分相互の境界面の結合力が弱いものであることは、前記当事者間に争いのない技術常識から明らかなところであり、審決が判断するように、コンクリート打設後、側壁6と溝底コンクリート7が密接に結合して最終的に一体となるという現象は起こり得ないのであるから、審決の右判断は前提において失当である。のみならず、仮に両者が一体となつたとしても、第一引用例のもののように、側壁と下端の内側の長手方向全部に凹部を設ければ、下端内側は全面にわたり薄肉凹部により形成されることになるから、薄肉凹部を下端内側の一部に設け、他を側壁の下端と同一幅の厚肉部(凹部に対して相対的に突出した凸部)とした本件考案に比し、水平方向からの土圧に対する剪断抵抗力が著しく弱く、両者間の抵抗力に顕著な差がみられることはすでに説示したところから明らかであるから、この点からも審決の前記判断は誤りといわざるを得ない。

なお、被告は、側溝ブロツクを据え付けるに際して溝底コンクリートを厚く打設すれば、これによつて水平方向の土圧は支持され得ると主張して、この点の効果の顕著性を争うところ、十分に厚い溝底コンクリートを打設して土圧に対する強度の問題を解決できるからといつて、経済的な観点からみても、そのようなことをしないで、しかも第一引用例の「長手方向に沿う全部に段部を形成した」構成より土圧に対する剪断抵抗力の強い側壁を達成できたことは十分評価され得る作用効果とみるべきである。

また、審決は、前記(d)の効果に関して、「コンクリート等破損のおそれのある部材において薄肉部分が少なければその分破損のおそれが少なくなることは技術常識上自明である」と摘示するが、すでに認定説示したところから明らかなように、本件考案は、前記<2>の特徴的構成を採用することによつて、重力方向の荷重に対して十分対応できると共に、水平方向の土圧に対しても強い剪断抵抗を得ることができるという顕著な効果を得たものであつて、この特徴的構成が併せて、輸送及び取付けの際においても凹部に基づく薄肉部分が少ないのでその部分の破損の虞れも比較的少なくなるという効果を奏するものであるから、それ自体が前記<2>の構成に随伴するものであつても、右の特徴的構成が、第一引用例及び第二引用例からきわめて容易に想到できないものである以上右の効果をもつて自明の効果としてみることはできない。

5 右のとおりであるから、審決の相違点<2>についての判断は、その判断の前提とした事項及び作用効果についての誤つた認定判断に基づく誤つた判断といわざるを得ず、違法であるから取消しを免れない。

四 以上のとおりであるから、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものとして、これを認容する。

〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。

対向する一対の側壁6、6の上端間を一体的に連結する上梁部11を有し、溝底が開放されてなる側溝ブロツクにおいて、少なくとも側壁6の内外面の中間部以下を突出段部のない平面で形成すると共に、側壁6内面の下端にはその長手方向に沿う一部のみに溝底側端嵌入凹部12を形成したことを特徴とする側溝ブロツク(別紙一参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙一

<省略>

別紙二

<省略>

(他は省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!